アイツ……。

秋帆は、俺のこと好きなのか?という問いかけに
違うと否定した。
ショックだった。
だから俺も意地を張って、
秋帆が俺を好きになるなんて有り得ねぇ。なんて言葉で返した。動揺している俺に気づかれないように。

なのに秋帆は、とんでもないことをしてきた。

いきなり俺の前に立ち、秋帆の唇が俺の唇に重なった。
一瞬何が起きたかわからなかった。
その場に立ち尽くした俺。

何も言わずキスをし、俺に秋帆という存在を散々アピールしておいて、急に俺の前から消えた。

アイツがいなくなるなんて想像もしてなかった。

いつも俺にこき使われて怒る秋帆が当たり前になっていた。そのやり取りが心地よくて、幸せだった。秋帆のコロコロ変わる表情を見るだけで癒された。

なのに、秋帆は次の日から学校に来なくなった。俺がどんだけ後悔したかわかるか?

悔しくて悔しくて……。

担任も秋帆の新しい住所は、俺に教えてくれなかった。秋帆が教えないでくれと言ったらしい。

俺のことが嫌いだったのか?

嫌いだったらあんなキスしないだろっ。

本当、わけわかんねぇよ。

それからの俺は、アイツを忘れるため、女と付き合ったりした。

でもダメだった。

キスしようとすると、アイツとのキスがフラッシュバックのように目の前に現れる。

『私を忘れないで』

そう言われているような気がした。

アイツの存在が強すぎる……。

だから、諦めた。

俺にとって秋帆は最高の女で、アイツを超える女が現れない限り、無理だ。

きっとアイツは、俺がキスに慣れていると思ったに違いない。
だけど、俺は秋帆とのキスが初めてだった。
だから未だに秋帆とのキスだけだし、俺の心の中にいるのも秋帆だけだ。
俺がこんなにも一途だとは、秋帆は知らないだろうなぁ。
アイツは、俺とのキスが初めてだったのか?

ふと、そんなことをたまに思い出す。


あの事件があってからは、何かに集中したかった。だから仕事に生きよう。そう決めた。

大学に行き、経済学を学び自分で会社を立ち上げた。大学の時に友達になった颯哉と2人で。会社を立ち上げてから2年。かなり大きく成長した。

その間、秋帆を忘れた日など1度もなかった。

会社名も、2人のイニシャルをとってR&Aにした。

颯哉は、何も文句は言わなかった。
俺の思いを知っているから応援すると言ってくれた。本当にありがたい存在だ。

また秋帆に再会するとはな……。

神様は本当にイタズラが好きなようだ。

こんなところで再会するとは思わなかった。
最近、世間では急成長した会社として注目されている。俺としては、まだまだと思うが注目されることは、良いことだ。だから取材を拒否しようとは思わない。だから今回もアイツの出版社だからといって拒否はしない。

ずっと好きだった女だ。

だからこそ俺が成長したところを見せたい。

注目を浴びている会社だから余計に良い仕事をしなければならない。まっ、今回もいつも通りにするまでだ。これからアイツがどういう行動に出るか、お手並み拝見と行こうか……。