「どうぞ」

玄関のドアを開けた蓮翔。

「お邪魔します」

私は、玄関に入ったもののただ呆然とするしかなかった。

「ほら、行くぞ」

「ちょっと、待って」

私の手を握りながら蓮翔は、リビングに向かった。

蓮翔の住んでいる所は、私の家と比べ物にならないくらい広く、やっぱり社長なんだなぁって改めて実感した。

「秋帆、何か飲むか?」

「うん、お水が欲しいな」

「了解」

蓮翔は、キッチンへ消えていった。

男の人の家も初めてだし、蓮翔の家なんて……ドキドキする。なんかどうしていいかわかんないよ。

「座って……」

「……うん」

蓮翔がペットボトルの水を持って、キッチンからやってきた。

「ところで話って何?」

「秋帆は、何でそんなに焦ってるんだよ」

「私も早く家に帰ってくつろぎたいのっ」

「ここでもくつろげばいいだろっ」

「人の家で落ち着けるわけがないでしょっ」

私は、ぷいっと首を横に振った。

「秋帆……」

優しい声で私の名前を呼ぶ。どうしたのだろう?いつもの蓮翔と違う。

「……なっ、何よ」

私も急に何だか寂しくなって、テンションが下がった。

「俺のこと、もう好きじゃないのか?」

「急に、どうしたのよ?いつもの蓮翔と違うよ?」

「真剣に聞いてるんだよ。秋帆がもう俺のこと好きじゃないのなら……秋帆のこと、諦めるよ」

とても悲しそうな顔をして私を見つめた。

「蓮翔の気持ちってそんなものだったんだね。やっぱり私のことなんて遊びなんでしょ?」

とにかく、腹が立った。私の気持ちなんか全然分かっていないし、簡単に諦められるくらいの気持ちしかない蓮翔にイライラした。

「お前なぁ、俺はずっと秋帆だけ好きだったんだぞっ」

蓮翔が呆れながら、私に話しているのが分かった。

「そんなこと言われたって、全然わかんないよ。高校の時から今まで、蓮翔から好かれてる実感がない。いつもからかって、私のこと使ってばかり。それで好きだって言われたって分からないよ。付き合ってからだって、放っておかれてるし……」

「ごめん……」

「やっと、想いが通じたと思ったのに……」

「秋帆……」

蓮翔の手が私の頬に触れた。

「……バカ」

「ごめん……」

「こんなに好きなのに……」

「俺も好き……」

蓮翔は優しい表情をして、また私の頬に触れた。

「……」

「もう泣くなっ」

「えっ?」

「こんなにも泣いて……」

自分で気づかなかった、泣いてることに。

まっ、待って。

ということはかなりヤバい顔になってる。今日は、結婚式だから濃いめのメイクだし。

「みっ、見ないで……」

私は、恥ずかしくなって俯いてしまった。

「秋帆、顔見せて?」

「嫌だよ~っ」

「何でだよ。ほらっ、見せろっ」

私の顔を手で抑えて、無理やり蓮翔と見つめるように上に持ち上げられた。

「凄いことになってるから、恥ずかしい」

「気にすんなっ。どんな顔でも全部好きだから……」

私を見つめながら、そんなこと言うから、心臓がバクバクする。

「秋帆……」

「……っ」

優しく触れるだけのキスを私にした。