そのまま従業員用トイレに駆け込んだ私は休憩時間が終わるまでその場に隠れていた。



洗面台の時計を確認してから厨房に戻るとすぐに店長に呼ばれた。



「伊藤さん、今朝女の子が自転車で転んだのを助けた記憶あるか?」



何その聞き方。
記憶無かったら私はただの記憶喪失だよね?

なんて心の中ではツッコむ余裕があるくせに、相沢くんと彼女がカウンターの向こうに見えたから身動きがとれなかった。



その時、彼女がこっちを見た。



そして、相沢くんの腕を引っ張って私の方を指差した。

それに気付いた相沢くんがこっちに来た。



「もしかして、伊藤さんが彼女を助けたの?」



いつもと違う相沢くんの言葉が私を冷静にさせた。



「うん。なんで?」



そんな事を知ってどうするのかというように問い返す。



「彼女、親切に手当てしてくれた女の子にお礼したいんだってさ」

「そんなの別にいいよ。血を拭き取っただけでお礼なんていらないから気にしないでと伝えてね」



話は終わったというように私はカウンターから離れて仕事に取り掛かった。