「…うわっ!」



振り向く間もなく、体をガクンと後ろに強い力で引っ張られる。

気付くと…真上から落ちてきた黒い羽根は纏まって一つの帯となり、俺の体を一気に拘束していた。

そして、黒い翼の彼の手の中へと引き寄せられる。

彼の不自然過ぎて不気味な笑みが視界に入った。



何?…何が起こった?

何で、この彼がここに?!



「伶士っ!」

「…橘くん!」



なぜ…俺が捕まった?!



俺の体を抱えた黒い翼の彼は、もう一度、俺の耳元で囁く。



「…本当はさ、あんなズタズタの弱りきった魔獣なんて、もういらないんだよね?」

「えっ…」

「君さえ手に入れば…ねぇ?『夢殿』」



なっ…夢殿?

って、何。



「橘くんから手を離しなさい!リグ・ヴェーダ!」



鬼気迫った怒鳴り声で、こっちに銃口を向けるのは、綾小路室長だ。

表情もいつもの涼しそうなものではなく…目がつり上がって、険しいものになっている。



それをバカにしたように、彼は「あははっ」と笑う。



「その様子じゃ…彼が何だかわかってるみたいだね?」