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…まさに、一触即発の時だった。




『…なずな!返事をしなさい!…なずな!』



綾小路室長の無線越しの呼び掛けもむなしく、なずなには届かない。

なずなはもう、卑劣なクズヤローへの怒りで頭がいっぱいなのだと思われる。

表情も無い中、目が…静かに血走っている。



「…本来、魔族ってのは、人間を最高級の食糧としていて、目の前にすると食べたくて食べたくて仕方ない連中…」



そう呟きながら、なずなはゆっくりと高橋に近付いていく。



「…でも、この吸血魔獣は人間を食べない。人間に対して友好的な思想を持っているからな?…人間を食べることを自ら禁じている種族だ」



人間を食べない魔族…人間に友好的な魔族?

そんなのいるのか。

思想で人間を食さない…こっちの世界で言うと、宗教みたいなものなんだろうか。

肉を食べない宗教、あるもんな。



そして、高橋の目の前に現れたなずなは、足を止める。



「…それなのに、そんな魔獣に、おまえらはあえて人間を与えるような行為をしやがって…結界に監禁するようなマネしやがって!」