くっ…!

目の前に、これから被害に合うかもしれない人がいるのに…!



しかし、綾小路室長の言い分も頷ける。

中は俺達にとっては、まだ未知の領域だ。

それに、これから被害に合うかもしれないっていうのは、あくまでも想像の話、仮定。

一行が扉の向こうへ行ってしまい、扉が閉まるのをただ黙って見送ることになっても。

ここはグッと堪えるしかなかった。




「…拓狼さん、でも、これって」



なずながそう言い掛けると、返答が。



『ただいま二年の伊藤梨子の所在を関係者に認証してます。…うん、なずなの言うとおり、傷害的にもクロの確率高くなったね?もし想像通りのことがされていたのなら、現行犯逮捕。我々が突入します』

「…了解」

『…橘くん』

「…は、はい」



綾小路室長の優しい声が、耳に響く。



『絶対、大丈夫だから。上手くいく。だから今は堪えて』

「…はい」

『式神の帰還を待ちましょう』

「…わかりました」



…だが、そう宥められても、焦る気持ちは治まるワケではなく。

もしこれで、想像の通り、伊藤さんに何かあったら。

凌憲が…悲しむ。




言われた通り、待機。

ソファーに深く座り込むが。

正直、落ち着いてはなど、いられなかった。