元カレ社長は元カノ秘書を一途に溺愛する

「ごめんね。今日はケーキ買ってこなかった。次くるときは買ってくるね。また食べようよ。ケーキ。季節の果物使ったケーキ。この前の桃のケーキもおいしかったけど。これから果物がもっとおいしくなる季節でしょ?次は・・・」
我慢をしていても涙が流れ出す。
「次は何のケーキがいいかな。たまには季節の果物のケーキじゃなくて、チョコケーキもいいな。あっチーズケーキも。お母さん、よく私が小さいころやいてくれたよね。チーズケーキ。おいしかったなー。あのレシピ、書いてくれたよね。作ってみようかな。」
細い細い母の手が少しずつ冷たくなっていく。

杏奈は自分の手で母の手をさすった。

「もうすぐ夏だね。海に行きたいね。のんびり海が見える場所でベンチに座って・・・」
そんなのかなわないと知っている。

わかっていても話し続けないと母の命が尽きてしまうのではないかと不安になった。

「お母さん・・・死なないで・・・」

ずっとずっと言わないで来た言葉。
「死なないで。私を置いて行かないで。そばにいてよ。」