「早く見つけないとな・・・焦ったって仕方ないけど。」
もごもごと口の中のバナナを食べていると、瑠衣がペーパーナプキンで杏奈の口を拭いた。

「チョコついてた」
「ありがとう・・・」
自分の口に入れる大きさで杏奈の口に食べ物を入れる瑠衣。食べた後に杏奈の口にソースがついていつも瑠衣が拭いてくれる。
懐かしいやりとりを当たり前のようにする瑠衣。でも杏奈の心はいちいち高鳴ってしまう。

「今うちの会社で作ってる製品のことをもう一度調べてるんだ。」
「でも、専門分野だから調べるも何も」
「使ってる成分は知っていても、その成分の精製方法とか、原料とか」
「そこまで・・・」
話を聞くだけでも杏奈には薬学の知識がなくとも壮大な量の情報だとわかる。
最近朝早くから夜遅くまで調べていたのはそのことだったのかと杏奈は知った。

「前社長がよく見ていた製品リストがあって」
「製品リスト?」
「特許をとるときに必要だった書類。その中には必要な最低限のデータだけじゃなく前社長が研究をしてきたときの経過が記録されてるものがあるの。」