元カレ社長は元カノ秘書を一途に溺愛する

辛そうな目をする父に、杏奈は目の前のコーヒーを一口飲んだ。

「何度も病室の前までいったんだ。でも、会えなかったのは父さんの弱さだ。」
自分がもしも母だったらと何度も考えた。そして、瑠衣だったらとも考えた。

同じ立場だったら、同じような選択をしただろうか。

でも、何度考えてもやっぱり想像することすらつらくて、わからない。

「受け取ってほしい。今までさんざん苦労かけたから。」
父が願うように杏奈を見る。

「どうして？」
「ん？」
「どうして私にも会わなかったの？母さんとの約束、どうして私には教えてくれてもよかったのに教えてくれなかったの？」

杏奈は父と母の約束知ってからずっと思っていたことを父に言った。

ギュッとぶかぶかの瑠衣の時計を握りしめるようにしながら父を見る。