元カレ社長は元カノ秘書を一途に溺愛する

「母さんとの約束だったんだ・・・」
亡くなった母の遺体を病院の霊安室にうつす準備をするからと病室から出された父と杏奈は病院の廊下のベンチに座っていた。

「約束?」
「がんだとわかった時、離婚してほしいと母さんからお願いされたんだ。」
「どうして・・・?」
父は母がいる病室の扉を見ながら話し続ける。
「母さん、昔から弱音を吐いたり、どんなにしんどくてもほかの誰かに見せるのが嫌だって言ってたんだ。いつだって母さんは強がりだっただろ?」
確かに幼いころの記憶の中の母はいつも気丈にふるまう人だった。

「俺に弱っていく自分も、病気に負ける自分も見られたくないって。」
「・・・」
父の瞳からまた涙が伝った。

『お願いよ。私はあなたの妻でありたいの。これから治療で私はどんどん醜くなる。あなたとの人生、幸せなことばかりだったのに、あなたにつらい思い出だけを残して逝きたくないのよ。治療で見た目も心も醜くなるかもしれない。そんなのあなたに見てほしくない。元気な私を。幸せで笑ってる私をあなたにのこしたい。』