side 紘基



新しい小児科の医者が入ってきて、しばらく経つ。



俺が担当している道口は、あまり喋らないものの、患者のことを想い、全力で治療に取り組める良いやつだ。



よっぽど子供が好きなのか、治療するときに泣き叫ばれようが、暴れようが、笑顔を絶やさない。



むしろ、それを喜んでいるようにも見えるほど。その態度、どっかの誰かさんにそっくりだよな。


後輩がきちんと育っていくのを見るのは、なんだか感慨深いものがある。



ただ、少し気になることもある。



西荻先生が、なんだか変だ。



もちろん、もう1人の後輩である山根のことや、日々の疲れも溜まりつつあるのだろう。



だけど、俺を好きだと言ったわりに何もしてこないし、最近じゃ目も合わない。



本当に俺のこと好きなわけ?と疑ってしまうくらい、何もアクションがないのだ。



今までなら、俺が顔を近づけると顔が赤くなったり、声をかけたら満面の笑みを浮かべたり、まあまあわかりやすい反応をしてくれた。



あっちからも積極的に話しかけてきたし、俺に好意を持っていることは丸わかりだったのに。



話しかけてもどこか上の空、雑談さえ続かない。



明らかにおかしい。



それが気になって、チラチラと様子を窺ってみたが、それにも気づかない。



なんか、すごく嫌だ。



今までだったら、ちょこまか動き回って、表情がクルクル変わるかわいらしい彼女が見られたのに。



沈んだ表情や、疲れたように机に伏せているのを見ることが増えた。



笑顔を見られなくて、すごく悲しい。



だからこそ、しょっちゅう話しかけて、笑わせたりしてるんだけど。



それさえ上手くいかなくて、弱々しい笑いしか見せてくれなかったときは、自分が情けなくなる。



あの、花が咲くような、明るい気分になれる笑顔が見たいのに。



なんでこんな思いになるのか、西荻先生をこんなに気にしてしまう理由は何なのか。



わかってるんだけど、まだ認めたくない。



あいつに対する想いがなくなったことを認めざるを得なくなるから。



もう、俺のあいつに対する想いは絶対に届かない。それはわかっていた。



1度玉砕して、密かに想い続けて10年以上。



やっと、俺の初恋が終わりを告げるのかもしれない。




西荻先生に対する想いを、認めたときに。



今はまだ認めないけど、本当に後ちょっと、何かのきっかけがあれば。



きっと、胸を張って認められる。



『彼女のことを好きになりました。』と。