寺内先生に想いがバレた日からしばらく経った。
いつの間にか季節は春になり、病院でも研修医が入ったりしてバタバタする時期に。
私の働く小児科にも、2人の新しい医師と看護師がやってきた。
1人は、道口葵[みちぐち あおい]という、寺内先生が担当することになった女医さん。
もう1人は、山根 暁十[やまね あきと]という大学の後輩で、この病院では珍しい男性看護師だ。
葵ちゃんも暁十も、素直で純粋な後輩だ。
特に葵ちゃんは緊急時に対応する力も高いらしいから、医者として活躍が期待出来る。
後輩の指導に忙しくて、寺内先生のことをあまり気にする余裕がなかったからか。
それとも、全く寺内先生を見なかったからか。
訝しげな目を向けられた。
『本当に俺のこと好きなわけ?』という思いがひしひしと伝わってきて、少し気まずい。
もちろん、寺内先生と話すときは、他の人と話すときとは違う緊張があるし、たまに見れる笑顔にドキドキする。
寺内先生の彼女になれたらなあ・・・と、何度思ったことか。
だけど、今は正直心に余裕がない。
体調を崩さないようにしなきゃとか、後輩をきちんと見てあげなきゃとか、いろんなことを考えすぎていて。
寺内先生の中で、ほのかに生まれた感情にも、凌空から自分に向けられた好意にも、気づくことは出来なかった。