私は目黒くんのデートの誘いは断って、社長のマンションに帰った。

コンシェルジュの山本さんが出迎えてくれた。

「つばさ様、お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました」

私はカードキーでロックを解錠した。

婚約者いたんだ、そうだよね。
それじゃ、私はここに居てはいけないんじゃないの?
そんな事考えていたら社長が帰ってきた。

「つばさ、ただいま」

「お帰りなさい」

そして社長は私を抱きしめた。
社長の顔が近づき、キスされそうになった瞬間、私は顔を背けた。

「つばさ? どうかした?」

社長は不思議そうに私の顔を覗き込んだ。

「私、やっぱり目黒くんが好きです」

「えっ?」

社長は驚いた表情を見せた。

「ごめんなさい、すぐ出て行きますから」

「ちょっと待って、目黒になんか言われたのか?」

図星を突かれ戸惑いを隠せなかった。

「やっぱりそうか、何を言われたんだ」

あ〜、どうして私はすぐに心を見抜かれてしまうの?
もうごまかせないよ。

「つばさ、ちゃんと話してくれないと、誤解のままになっちゃうから」

私は覚悟を決めて話し始めた。

「社長、婚約者いるんですか」

社長は心当たりがある様子で俯いた。

「やっぱりいるんですね」

「つばさ、ごめん、確かに俺には婚約者がいる」

谷底に空き落とされた程のショックを受けた。

「じゃあなぜ私と結婚を視野に入れているなんて言ったんですか?」

「つばさと結婚したい気持ちに嘘はない」

社長は真剣な眼差しで私を見つめた。

「でも社長には婚約者がいるんですよね」

「ああ」

「社長の言ってる事理解出来ません」

私は社長に背を向けてマンションを飛び出した。

「つばさ!」

社長は私の背中に声をかけたが、その声は
どんどん小さくなり、聞こえなくなった。
追いかけて来てくれないと悟った。