【完】スキャンダル・ヒロイン


思わず耳がダンボになる。
睨みつけてた?スタッフの動きを監視?

そう、ある意味挙動不審の動きをする男だ。

けれどそれってまさか……あいつ挨拶をしようとしたのでは…?作品に携わっているスタッフのひとりひとりを丁寧に書きだしているような奴だ。

台本をあんなにボロボロにするまで読み込んで…。


思わず頭を抱える。そんな不器用でよくもまあこんな厳しそうな芸能界を生き抜いてきたもんだ。

姫岡さんは確かに口が悪くて、怒りっぽい人ではあるけれど……作品を蔑ろに扱ったりはしない。それを作るスタッフにも敬意を持ってると…思う。

なんて誤解されやすい人だろう。生き方が下手すぎる。


’スタッフさんたちに失礼な態度を取ったらただじゃおかないからな’
’沢山のスタッフさんがいて現場は成り立っている’


先程の姫岡さんの言葉を思い出す。違う。あの人はあなたたちが思っているような人ではない。

「姫岡さんはいりまーす!」

そうスタッフの掛け声と同時に、現場に入って来る姫岡さん。
風を切って、ヘアメイクをされて衣装に袖を通したその姿は…

いつものようなふざけた姿では決してない。背筋をピンと伸ばし。前髪を上げていて凛とした瞳を真っ直ぐに向ける。

一瞬でその場の空気を変えてしまうような存在。

これはカリスマ性と言うのだろうか。ああ……この人はスポットライトの下を歩くのに選ばれた人間だ。

周りを取り囲む人気若手俳優たちの誰よりも、彼の佇む場所だけが異質とも言える輝きを放っている。