「おい!ここきちんと点検してんのか?!」
突然の怒鳴り声に思わず肩がびくりと上がってしまう。
恐る恐る振り返ると、小道具の人らしき人が慌てて駆け寄って忙しなく動いている。
び、ビビった。私に怒ってるのかと思ったよ。どうにもこうにも現場はピリついているようだ。
「さっき柳さんがしたって言ってましたけど」
「ならいいけど、怪我人でも出たら大変だぞ?!」
きっと集まっている人間の気持ちは同じ。良い作品を作りたいって。どの仕事でもプロフェッショナルな人はいるだろう。
そしてこの現場はプロフェッショナルの集まりなんだ。俳優という商品を輝かせる為に、その影で沢山の人が動く。そう考えたらちょっと惚けて天然の所があって馬鹿な奴だけど、あいつって全然違う世界の人間だ。
本来ならば呑気に一緒にご飯を食べられる立場ではない。寮にいる時の姫岡さんはすごく人間らしくて時々それを忘れてしまうけれど。
ササっと邪魔にならないように端っこに寄る。すると数人のスタッフの話し声が聴こえてきた。
「姫岡真央来てたじゃん。すっげー久々に見た」
「監督自ら特別出演のオファーしたらしいよ」
「へー。でも今全然テレビで見かけねぇけど噂では色々と問題を起こしてるみたいだね」
「しっかし感じ悪いなぁー。さっきわざわざ俺の前に来て睨みつけてたぜ?
まぁー有名芸能人様様ってかあ?
うろちょろしてスタッフの動きでも監視してるのかっつーの。やりずらいったらないよ。
ベテラン俳優かよって。まるで裸の王様だな」
「あっはは、まあー子役上がりだからね。よくある作品が売れたから自分の実力だと思ってる勘違い野郎だろう」



