遠くからふたりの姿を見守っていると、坂上さんは姫岡さんを連れて様々な所へ頭を下げに行く。ぺこぺことしてヘラヘラと笑いながら汗を掻いている坂上さんの横で、姫岡さんは涼しい顔をしてクールに振舞っている。
あいつ…………現場でも愛想の欠片もないのか。ここ1年仕事をしていないと言っていたけれど、あの様子では本当に業界から干されてしまったのではないかと不安になる。
ふと先程預かった映画の台本に目を通す。ボロボロになっていた台本。
パラパラと捲り手が止まる。
確かに今回は姫岡さんが昔出演した映画のスピンオフだ。だから勿論主役は姫岡真央ではない。
特別出演との事でたった1日で終わってしまうほんのワンシーンの撮影だ。けれど台本の中には事細かに赤ペンで書かれている。
どういったシーンなのか、どんな心境なのか…どう演じればいいのか。そして驚く事に主演する俳優の情報も事細かに書かれているし、スタッフさんの名前も記入されている。
「すっげー…汚い字…」
小学生の書く字みたいだった。けれど重要なのはそんな事じゃなくって…。
顔を上げたら相変わらず愛想よく挨拶に回る坂上さんの後ろで、無表情で少しだけ不機嫌そうな姫岡さんの姿。
けれどこの台本を見れば分かる。あいつがどれだけ仕事に真剣に向き合っていたのか。たったのワンシーンの出演でもこんなに細かく台本に記入をするものなのだろうか。
まさかあいつ……出演者とスタッフの名前も全部記憶してるんじゃあ………。



