【完】スキャンダル・ヒロイン


「何だよ。見てんじゃねぇよ」

横目でちらりと見ていたら目が合う。
目が合えば不機嫌そうに口をへの字に曲げて悪態をつくのは通常運行。

「別に」

「人の顔に見とれてんじゃねぇよ」

見とれてなんかないけど…。けれど日本中にファンがいるこいつと隣同士で座っているのを全国の女の子が知れば、それは羨ましがられる案件なのだろう。

本性を知っているこっちの身からすれば、寮にいる時の姫岡さんが素の彼だからそこまでキャーキャー騒がれるのは不思議な気持ちでいっぱいになる。


撮影現場は映画で見たのと同じ学校だった。
普通の学校の造りなんだけど、大勢のスタッフらしき人たちが忙しそうに駆け回る。

当たり前に映画やドラマの裏側なんて見た事がなかったから、こんなに大勢の人間が影で動いているなんて驚きだ。

ざわつく現場の中心にいるのは…名前は分からないけれどただ者でないのが分かる数人の人間。姫岡さんに似たオーラを持っている選ばれしものたち。

遠目からこの素人が見ても分かってしまう程、生まれつきスポットライトを浴びる為に生きている人間がいる。そして改めて自分の身の丈を知る。私は姫岡さんの言う通り一般人だ。


姫岡さんと坂上さんに荷物を預けられ、どこに居ていいのか分からずそわそわと体を動かす私は傍から見れば不審人物にうつるのではないだろうか。

いたたまれない気分になって端っこに身を寄せる。