肩をびくりと上げて恐る恐る振り返ると、怒りに満ち満ちた表情を浮かべる姫岡さんと、それとは対称的に爽やかな笑顔をこちらへ向ける昴さん…。

キュン。胸が高鳴って行くのを感じた。思わず頬が熱くなっていって、視線を逸らしてしまう。

本当にどうかしてしまったとしか言いようがない。大滝昴に会ったなんてりっちゃんに言ったら、きっと飛び跳ねて興奮するに決まっている。

「どーこにブスがいるんだか」

呆れたように笑って言った一言が………私を見つめるその真っ黒の大きな瞳が……。
ドキドキしてぶっ倒れそうだった。


昨夜4階の幽霊事件の正体は何と大人気俳優大滝昴だった。

昨日の事はよく覚えていない。けれど、彼がとても優しく話をしてくれた事だけは覚えている。
何でも1年前までは昴さんもこの寮に住んでいたらしく、昨日は久しぶりに飲んだ帰りに立ち寄ったらしい。

4階の奥の部屋は当時昴さんが暮らしていた部屋らしく、今現在も荷物は置きっぱなしになっているらしい。だからこうやってたまに立ち寄るらしい。

こんなイケメンを幽霊と勘違いしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「この混ぜご飯おいし~い。こんな美味しいご飯食べるの久しぶりだ。料理上手だね、静綺ちゃん」

「そんな……」

’静綺ちゃん’だって!名前覚えていてくれている…。大人気俳優なのに…私の名前覚えてくれてるなんて。

「何を浮かれている?」

「きゃあ!」

ぬっとキッチンの横に立ったのは姫岡さんだった。それはそれは恨めしそうにこちらを睨んでいるではありませんか。