文句のひとつやふたつ言いたくなる気持ちも分かる。

そして文句を言いながらも、4階まで一緒にやって来てくれたのだ。なんだかんだ言って良い奴かもしれない。

「大体子供じゃあるまいし」
「この世に幽霊なんかいる訳ない」
「それを馬鹿みたいに信じるなんてどこまで単純な脳みそしてんだ、お前」
「大体幽霊だってお前のブス面を見たら呆れて逃げていくに違いない」

やっぱり嫌な奴だ。それでも幽霊よりはマシなので彼の罵詈雑言は聞き流しておく。重要なのは、今日私が熟睡出来るかどうかなのだから。

姫岡さんの後ろにぴったりとくっついて奥の部屋の前までやって来る。

心なしか雨音が強くなった気がする。さっきから雷がゴロゴロと頭の上でなっている。もしかしたらこの建物に落ちて、私は死んでしまうかもしれない。

ごくりと唾を飲む音が聴こえた。ふと上を見上げると、姫岡さんの額にじんわりと汗の粒が見えた。

中からこつんと小さな音が聴こえると「ひッ」と短い悲鳴を漏らして、彼は私の肩へ身をすくめた。

…まさか、こいつ…。
散々人に偉そうな事を言っておいて、幽霊が怖い…?

「な、なんだよッ」

「まさかあんた…幽霊が怖いつーんじゃないでしょうね?さっきまで散々私に幽霊なんかいる訳ないとか言っておいて…」

「こ、この俺が、ゆ、幽霊なんて、こ、こ、こ、怖い訳ないだろう…。」

ぴかりと廊下の窓が光って雷の音が響き渡る。それと同時にゆっくりと幽霊の消えて行ったドアが開いていく。

そして中からはゆらりと黒い人影が…。

「う、うぎゃあ!」