掠れたその声はもうとっくに聴きなれたもの。

テレビの中でも何回も聴いて思った。美しい顔に似つかわしくない特徴のある少し掠れたハスキーボイス。

私はこの声が好きだった。聴いていてとても居心地の良い声だと思った。ぶるぶると震えながら、ごつごつとした細い体にしがみつく。

「おいってば!」

耳元でその怒鳴り声が響いて顔を上げると、そこには上半身裸の姫岡さんの姿。
ビー玉みたいな茶色の瞳を揺らし、ほんの少し戸惑った表情を見せて私の顔を覗き込んだ。

「キャー!!!変態!!」

事もあろうことか、私は姫岡さんの頬に平手打ちをかまして、ベッドからめいっぱいの力を入れて突き飛ばした。

あの綺麗な顔がドアップで、しかも上半身裸とか…幽霊や雷並みに心臓に悪いわ。

「お前……」ベッドから突き落とされた姫岡さんは、殴られた頬を押さえながらゆっくりとこちらへ睨みをきかせながら起き上がった。

明らかに怒っている顔だった。そりゃーそうだ。いきなり部屋に来たかと思えば勝手に抱き着かれ、殴られてベッドから叩き落されるなんて…きっと姫岡さんじゃなくても怒っていたに違いない。

「ブスがッ」
「人の部屋まで来て勝手に抱き着いてきたくせにッ!」
「何で俺が殴られてベッドから突き落とされなきゃいけんのだ!」
「この変態女がッ!」

彼はありとあらゆる恨みつらみを私へとぶつけた。別にそれはまだいい。今回の件は明らかに私が悪い。

勝手に部屋に行って、大混乱して彼に抱き着いてしまい、こっちから抱き着いたと言うのに殴ってしまいにはベッドから突き落とした。