心臓が止まりそうだった。ザーザーと雨音が強くなったのと同時に、取り合えず逃げなくてはと思考が働く。

早急に4階からは出て行こう。5階は姫岡さんがいるから、2階か3階へ引っ越しをしよう。その前に取り合えず助けを求めに行く。


一歩たりとも動きたくは無かった。

4階に住んでいる豊さんか坂上さんに助けを求めよう。…けれど豊さんにこんな話をしたら呆れられるかもしれない。それならば坂上さんに…と思った瞬間先程げっそりとした顔で帰ってきた坂上さんは酷く疲れたようでご飯も食べずに部屋に戻ってしまったのだ。

2階まではいくらなんでも遠すぎる。この真っ暗な廊下を歩くのさえ嫌なのに。

選択肢はひとつしかなくなってしまった。廊下に出て5階へ続く階段を駆け上がると、雨音と混じって音楽が聴こえて来た。きっと姫岡さんは起きているだろう。

長く暗い廊下をダッシュして音楽が聴こえてきた部屋のドアノブに手をかけると、ぴかりと雷が光って…そしてその直ぐ後にドンッと雷の落ちる音が響いた。

「ひぃぃいぃ!!」

ノックもせずに猛スピードで部屋に体当たりで入って行き、奥に置いてあるベッドまで猛ダッシュする。
するとふわりと香水の匂いが鼻を掠めて、ごつごつとした肌に触れた。

「な、何だッ?!」

「助けてぇ…。幽霊がぁ…」

恐ろしい幽霊と雷の音。パニックになっていた私は、その部屋の主の体に抱き着いているとも知らずに、目を閉じて涙ながらに助けを求めた。

「ちょ、落ち着け。」