【完】スキャンダル・ヒロイン


そう語る姫岡さんは子供のように嬉しそうで、心から演技が好きなんだと思う。

さっき見ていた冊子はきっとその台本だ。彼の手の中に大事に握られている。ボロボロになるまで読み込まれたであろう台本。

’頼まれて’’仕方がなく’出るたったの’ワンシーン’だけでも、その台本は使い古されたが如くボロボロになっていた。

間違いなくこの人は俳優で、演技を愛しているのだ。

だからこそ疑問なのだ。 どうして彼が演技の仕事をこの1年まともにしていないのかが……。


その日から私は姫岡さんの作品に夢中になった。
連続ドラマは10話近くあるので、見るのは時間がかかってしまうから毎日少しずつ。
それが毎日の日課になりつつあった。

「瑠璃、ネバネバだ~い好き。」

夕食時、瑠璃さんはご機嫌で私の作った夕食を食べていた。

「納豆もおくらもだ~い好き!」

「本当?良かったです。夏バテにも効きますよ?」

今日の夕飯のメニューは納豆とオクラと豆腐のネバネバ丼だった。

坂上さんと山之内さんは今日は遅くなるらしく、瑠璃さんと豊さんと姫岡さんの4人で食卓を囲む。

瑠璃さんは何を食べても「美味しい美味しい」と言ってくれて、豊さんは無口な人だってけれど文句も言わずに私のご飯を食べてくれた。


そして姫岡さんは……今日のおかずのひとつジャガイモと人参のきんぴらを前にフリーズしていた。

私が彼の主演しているDVDを見始めて以来、ほんの少しだけ世間話をするようになった。

基本的に意地悪な性格だったけれど、ほ~んのちょっぴりだけ仲良くなった。ほんの’ちょっぴり’だけどね。