人は夢を見る。叶えられない夢を見る。自分に叶えられない夢やストーリーを、誰かの手によって消化される事を望む。
そしてそれを演じる俳優の役柄に自分を重ねる。自分の境遇を重ね、泣いたり笑ったり、時には優しい気持ちになる。
「俳優さんや女優さんってすごい……」
素直な感想だった。
自分じゃない誰かになり切って、人々にときめきや夢を与える事が出来るなんて、なんて素敵な職業だろう。
そして演技をしている時の姫岡さんは、この家で見たどんな顔よりも輝いて見えた。
だからこそ……彼がどうして仕事を引き受けないのか…自分に着たオファーを現在断っているのか分からなかった。
こんなに素敵な演技が出来る人が、どうして?
殆ど眠る事もままならずにかったるい体を無理やり起こして、1階へ向かう。
今日もいつも通りトレーニングルームで姫岡さんは筋トレをしているだろう。自分そのものが商品になっていく世界で、彼が毎日トレーニングを欠かさない理由も彼が自分が商品である事を理解しているからだろう。
だからこそ疑問なんだ。
「ふぅ…」
息を小さく吐いてマシーンから立ち上がったかと思えば、首に巻かれたタオルで汗を拭い彼は床に置かれた1冊の冊子を手に取った。
それを真剣な顔をして覗き込む。…あんな真剣な横顔。普段なら絶対に見せないくせに。
私は入り口に隠れてこっそりとその様子を見つめ続けていた。…これじゃあストーカーと呼ばれても仕方がないかもしれない。けれどもどうしても目が離せない。やっぱり人の目を惹いてやまないのが俳優姫岡真央なのだ。



