【完】スキャンダル・ヒロイン


食堂から麦茶を持ってきて、坂上さんの座るテーブルの前に出すと、彼はそれを一気に飲み込んで汗をタオルで拭った。

いつもにこにこと笑って感じの良い人。姫岡さんの専属マネージャーらしいが、こんなふんわりとした雰囲気だったら、あんな性格のキツい姫岡さんを担当するのは大変だろう。

まぁ今は仕事もしていないみたいだから、現場には行かずに会社に行っているみたいだが。

「真央くんのDVD見てたでしょう」

「あ、あれは…たまたま目について…」

「大ヒットしたドラマだからねぇ。続編もって話があったんだけど、真央くんが乗り気じゃなくってさぁ」

「私実は…姫岡さんの出演しているドラマとかって見た事なくって…
ていうか…殆どテレビ見ないんですよね。だから彼の事も知らなくって」

「えぇーーー?!」

麦茶を手に持ったまま、坂上さんは偉く驚いた顔をして声を上げた。
そりゃーそうだ。りっちゃんだって姫岡真央を知らないなんて信じられないって言っていた。

それ程私は疎い女だったのだ。けれどだからこそミーハーな気持ちにもならずに、冷静にこのバイトが出来ている事は有難いと思うが…。

「何か、すいません…」

「そうだったんだぁ。真央くん去年まではひっきりなしにテレビや映画に出ていたのにね。
あ、良かったらこれ見て見てよ。
このドラマも評判が良かったんだけど、こっちの映画もすっごく良いんだ。
真央くんは恋愛もので10代の女の子や20代の女の子をきゅんきゅんさせがちだけど、結構社会派の物語でも良い演技をする子でさぁ」

そう言って坂上さんは嬉しそうに姫岡真央の出演作品を私の前へ山積みで並べる。