【完】スキャンダル・ヒロイン


ぼそりと呟く豊さんの後ろを、瑠璃さんは犬のようにキャンキャン何か言いながらついていく。
豊さんの方が少し年下らしいが、ふたりはなんだかんだ仲良しらしい。

どう見ても明るく見えない豊さんの人を変わった姿は少しだけ見て見たい。
そんなふたりの背中を見送り、食堂へ戻った時だった。

姫岡さんはいつも通り1番最後の朝ご飯。食堂にあるソファーに腕を掛けて、顔だけこちらを見つめる。ビー玉みたいな大きな瞳を見開いて、ちっともにこりともせずに言った。

「おい、飯」

何だその言い草は。私はあんたの奴隷か。

「はいはい、今日は人参いっぱいのサラダを用意してますよ」

「今日も人参かよ?!」

「だって大好きなんでしょ?」

ちょっとだけ意地悪でそう言ってやったら、姫岡さんは顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いて見ていたテレビへ再び目を向ける。

姫岡真央。嫌いな食べ物は人参とピーマンと椎茸。まるで子供みたいな奴だ。

朝早く起きて筋トレをしてシャワーを浴びて、皆が起きてくる前に一旦自室へ戻る。

そして皆が仕事に出ていく頃に再び1階にやって来て朝食を食べる。 ので、自動的に私は姫岡さんと朝ご飯を食べる羽目になる。

私の姿が見えるのは嫌かと思い、始めは気を遣って一緒に食事をするのは避けていたが…何故自分の分を用意しているのに食べない?と言われてからは何故か一緒にご飯を食べる事になる。

特別な会話はない。

口を開いたかと思えば、優しい言葉は投げかけてこず…大抵は私の容姿の批判から始まり、ご飯のメニューの文句をつけ始める。

全く優しさはないが特別に極悪人ではない事も理解してきた今日この頃。