不安に思っていたよりずっと和やかな夕食に、ここでバイトをする不安はすっかりと消え去って行った。
それどころか…これは…ちょっと楽しいぞ?
歳もバラバラで家族とは言えないけれど、皆で夕食を囲むのがこんなに楽しいとは…。
私は余り人懐っこい性格ではないので、瑠璃さんのように犬のように人懐っこい性格の人は一緒にいて気が楽だ。
豊さんは無口だけど悪い人でもないようだし、山之内さんと坂上さんは大人だから勿論優しい。姫岡さんは……あんまり関わらないで置こう。
夕飯を終えてお皿を洗っていると食堂に集まっている皆が、ワイワイと楽しそうに談笑している。
仲が良いんだな…。芸能界で働いている人達って自分とは全然違う世界にいる人たちだとばかり思っていたけれど、結構普通に生活している。私達と何ら変わりない。
この仕事は断ろう、と思ったけれど何とかやってきけそうで安心した。
「おいッ」
「ひぃ!」
突然後ろから声を掛けられて思わず肩が上がる。
もう分かっている。こいつの特徴的な声はすっかり脳内にインプットされた。
恐る恐る振り返ったら、両手を組んでこちらを見下ろす…何とも美しい顔立ちの男。
人ってカラコンもしていないのにこんなに美しい茶色の瞳になるものなのか…。いやカラコンかも知らんけど。
濡れた手をエプロンで拭って、姫岡さんの方へ向きなおる。眉をしかめて目を細めてジーっとこちらを見つめる。何でこんなに怖い顔が出来るのだろう。
雑誌で写っていたような笑顔で常に居てくれるのならば、こっちだってここまで怖がらないんだけど。…でも芸能人だって人間だからいつだってニコニコと笑ってもいられないし、不機嫌になる時だってあるもんね。



