泥水で汚れた床を再び雑巾で拭き始める。
泣いちゃうなんて馬鹿みたいだ。私はここにバイトで仕事をしに来ていて、瑠璃さんはここに住んでいる所属タレントなのに、心配をかけるような事ばかりしちゃって。
「これ……真央ちゃんが持ってきてくれたんだぁ」
パタパタと足音を鳴らして入り口付近に駆け寄る瑠璃さん。その手の中には真新しいエプロンがあった。
それを瑠璃さんは私の胸へ押し付けるように渡してきた。
「さっきスーパーから帰って来て静綺ちゃんがエプロン忘れたーって騒いでいたでしょう?
だから真央ちゃんきっと持ってきてくれたんだと思う。てか、これわざわざ買いに行ったのかな?キリンさん柄なんて、ぜんっぜん真央ちゃんらしくないよね?」
私の手の中に、黄色のキリンさん柄の可愛らしいエプロン。
全く姫岡さんに似合っていなくって、もしも彼がこれを買いに行っていたとしたのならば、それは笑える。
さっきまで流れていた涙が引っ込む位笑える。私が声を出して笑うと、目の前でしゃがみこむ瑠璃さんは嬉しそうな顔をして笑った。
「真央ちゃんは悪い子じゃないんだ。それはきっとここで暮らしてる住人なら誰でも知ってるの。」
「うん。そうみたいですね」
キリンさん柄のエプロンをぎゅっと握りしめて、心がほんの少し柔らかくなる。
「ちょっと口が悪くてぶっきらぼうなだけなんだ。
それにこの業界を生きている人間なら分かるよ。真央ちゃんの苦悩はね…。
特に子役時代から芸能界にいる子って、周りからの風当たりも強かったりするしね、人気商売だから余計にね。
だから静綺ちゃんもあんまり真央ちゃんを嫌いにならないでね?」



