Act1  人生史上最悪の男と出会った日。




今日は人生史上最悪の日。これから先もこの最悪の日を更新される事はないだろう。

そう思い込んでいた初夏の出来事。私は現在お洒落なカフェで心から信頼出来る友達だと思い込んでいた人物と向き合って座っている。

テーブルに置かれたアイスココアは全く手を付けられる事がなく、汗をかいたままぽつんとそこに取り残されている。喉はからからだった。けれど、それに手をつける気力さえも奪われてしまっていた。

目の前にいた信頼出来ると思っていた友達のひとり 川崎(カワサキ)しおりは視線をテーブルに落としたまま気まずそうに黙り込んでいた。先に口を開いたのは、私の方だった。

「仕方がない事だよ。私の事なら気にしないで。しおりがもしもたっくんの事が好きならそれは仕方がない事でしょう?私に遠慮なんかしないで」

「でも静綺(シズキ)…私そんなつもりじゃ…」

じゃあどんなつもりだったんだよ。と私はここで怒る立場だったのだろうか。
未だに自分自身の頭が混乱していて、今にも泣きだしそうなのをグッと堪えた。

だってここで泣いてしまったら余計に惨めになるだけだ。 カフェの外に横づけされているシルバーの車。それには見覚えがあった。

しおりは瞳から大粒の涙を零して嗚咽を堪えている。

泣きたいのはこっちだ。そんな事を言ってしまえば、私の人生はヒールに決定。

だってこの状況…傍から見ればどう見たって……ヒロインを泣かせている悪役にしか見えないって…。ただでさえ身長150センチの小柄なしおりと、165センチの私が並んでいたら…どう見たってヒロインに相応しいのはしおりの方だろう。