少しだけ自惚れてもいい?

自分に都合の良い事を考えるのは余り得意ではなかった。いつだって最悪の事態を想定して生きて来た。

だから未だにこの舞い落ちて来た奇跡を信じられそうにない。けれど目の前にいるあなたはとても優しく笑ってくれるから。信じ切れなかった奇跡だって信じたくなるんだ。

「何?伝えていない事って?」

「お前から言えよ」

「普通こーいうのは男の方から言うものでしょ?」

「クッソ生意気。何で俺から言わなきゃならねぇんだ。お前俺を誰だと思っている」

「超超超人気イケメン俳優、姫岡真央」

いつもと同じだ。意地悪そうな笑顔を浮かべて、鋭い視線をこちらへ向ける。
その顔も好きよ。

素直になれないのが性分だというのならば、私だって負けやしない。
けれど今日くらいは素直になろう。

だってこの胸の中に抱えきれない程の想いは、今にも溢れかえりそうだったから。

「私、真央の事が好き。ずっと好きだった――」

そう言ったら眉をちょっとだけしかめて、手のひらで顔を覆った。
照れた時にするあなたの、行動。もう分かり切っているんだから。
顔を真っ赤にして、けれどまた可愛くない事を言うんでしょう?

「そんなの、知ってる――」

彼の手が私を軽々と抱き上げるのと同時に、手に持っていた真っ赤な薔薇の花束が揺れて花びらが舞い散って行く。

窓からそれを見つめていた学生の悲鳴のような歓声が響く。周りを取り囲んでいた女の子たちの悲鳴に混じって、真央はゆっくりと私の顔を引き寄せて、キスをした。