ねぇ初めて会った日の事を今でも覚えていてくれていますか?
私はあの人生で最悪の日の事を今も全然忘れられそうにない。

何て美しい人だと思った。まるであなたの周りだけ切り取られたように、世界は変わって見えた。

美しい顔をめいっぱい歪ませてあなたは不機嫌な素振りを見せて、ありとあらゆる罵詈雑言を私へ浴びせた。

あの日、これ以上の人生最悪の日を更新しないと思っていた。


けれどその中で色々なあなたの表情や想いを知って

寮を出ていく事になった時、もう二度とあなたと会えなくなると思った日が、本当の人生最悪の日に変わった。

いつの間にかあなたに会えない日々達全てが人生最悪の日になっていったのだ。


周りの人混みをゆるりとすり抜けて、真っ赤な薔薇を手に持ったあなたが真っ直ぐに私の元へと颯爽と歩いて来る。

笑っている顔も好き。

けれど、少しだけ困ったように口をへの字に曲げて、不機嫌そうにしているその顔も嫌いじゃない。

どんなあなたでもあなたを形作る物には変わりないから。

「静綺――」

私の目の前に来ると、口角を少し上げて照れくさそうに小さく微笑んだ。
名前を呼ぶ少し掠れたハスキーボイス。何度だって私の鼓膜を優しく揺らしていく。

「どうしてここに?!…今、私…真央に会いに行こうとしていた」

「俺だってお前に会いに来た」

「私…真央に伝えてない事があって…」

「俺だってお前に伝えていない事があった」

互いの顔を見つめ合うと、それはまるで鏡のように反射したように思えた。
きっと私達は同じ事を考えている。あなたの優しい瞳を見れば、それは分かるのよ。