【完】スキャンダル・ヒロイン


トンと背中を押されて、長椅子の間をすり抜けて走り出した気持ちは、もう止められなかった。

「おい君!どこに行く?!授業が始まるぞ?!」その言葉も無視して、構内の段差を勢いよく掛けていく。

「おいー!君ー!」

構内のざわめきと共に「キャー!」と言う悲鳴のような声が響き渡る。

皆が立ち上がり窓際へと視線を投げかける。その様子に気づいた教授が「座りなさい!」と生徒たちをたしなめる。

足を止めて窓際の方を向くと、下にある駐車場に見覚えのある車があって、そこには変装のひとつもしないで真央が立っている。

いつも通りのぶっきらぼうな顔をして、真っ赤な薔薇の花束を手にもって。

「あれって姫岡真央じゃない?!」
「キャー!かっこいい!!」
「何?!何かの撮影?!」

りっちゃんの方を振り返ると、笑顔でピースサインをしていた。
こくんと頷いて、私は大講堂を出て走り出した――。

もしかしてこんなに本気で走ったのは、人生で初めてだったかもしれない。
大講堂を出て、廊下とロビーを通過して、階段を急いで駆け降りる。

校内を飛び出たらすっかり雨は上がっていて、窓から見えていた虹が目に飛び込んできた。けれどそんな事にも目もくれずに走り続ける。

真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに彼の所へ。

駐車場が見えてきた頃にはすっかりと息切れをしていた。日頃の運動不足が祟ったか。

少しだけ膝を折り曲げて、その場で呼吸を整えると、黄色い声援が上がっていて私を追い抜いて駆け出していく人々。

駐車場の一角だけ女の子が集まって輪が出来る。顔は見えないけれど、あの中心にいるのはきっと――