「ふ、ふーん。お前本気だったのな。そういえばそろそろあいつの誕生日だっけな?」
惚けた振りをして、横に居る昴の顔色を伺う。
「そうそう。今日は大学に迎えに行ってあげなくっちゃ」
死ね。お前はいっぺん死んでやり直してこい。
けれどそう思うのも俺のただの僻みだってのは分かっている。
口には出さなかったけれど、昴と静綺はお似合いだ。
いっつも’ブス’だの’スタイルが悪い’だのあいつを見ていたら小学生並みの悪口しか生産出来ない馬鹿な口。
けれど知ってるんだ。静綺は可愛くて綺麗で…けれどそういったあいつを形作っている物だけじゃなくって、好きな要素は沢山あって
何気なく話している会話も楽しいし、安心出来る。俺がどれだけ演技が好きかを理解してくれて…あんな女に出会ったのは生まれて初めてだった。こんなに好きになったのも生まれて初めてだった。
「素敵なお店でご飯を食べて、今日は寮には帰らないかも」
「あっそ…勝手にすれば…」
余裕で笑う昴に対し戦意喪失。いやそれ以前に戦いを挑まなかったのは俺自身で、何かと言い訳をつけて逃げ続けた。
戦いもしない俺にチャンスの神様が微笑む訳もなく、その間に昴はきちんと行動に移していた。そんな俺に言う事はもう何もない。
「真央はそれでいいの?」
さっきまで笑っていたはずの昴の顔が途端に真剣になる。
それでいいのって訊かれた所で、こういった問題は今更どうにもなるもんでもないだろーがよ。



