当たり前に居た物が消えていく瞬間。その喪失感は仕事を失った時と似ているような気がした。
静綺の居なくなった寮はぽっかりと何かが音も立てずに穴を開けて行った感覚で
4階のがらんとした何もなくなった部屋を見る度に切なくなる。
いつも朝起きたら当たり前に居て、旨い朝ご飯を作ってくれていて、いってらっしゃいと声を掛けて笑ってくれた。
帰って来ても当たり前に迎えてくれて、ただただ笑って側に居てくれるだけで良かった。それ以上を望んでいなかったと言えば嘘になるけれど、一緒に居ればいる程欲張りになっていく自分が居たけれど。
好きになってくれ、なんて俺には大それていて、君の本当の気持ちを確かめる間もなく夏は終わった。
9月の終わり。
日ごと空が青く澄んでいくのを感じる季節。
けれど気まぐれな秋の空は晴れ渡っていたかと思えば、突然の大雨が降りだして
大雨が降ったかと思えば晴れ渡り雨上がりの空に七色のアーチをかける。
静綺の誕生日もそんな日で、ソファーに座り込んで窓を打つ雨を見つめていた。
「ふぁ~…真央起きてたの?相変わらず早いねぇ」
まだ寝ぼけ眼な顔をして昴が起きて来たかと思えば、キッチンからシリアルを取り出して俺の横に座り込んだ。
「隣に座るなー!!」
「いいじゃん別に。しっかし朝から自分の出てる番組を見るとかナルシストだなー…お前は」
「フンッ。かっこよく映ってるかチェックだ。」
朝の情報番組に、この間収録したロケ番組が映し出される。
そこには今日の日付と天気が映し出された。 今日は日本全国晴れ?だと?じゃあこのざんざんに降っている大雨はなんだっつーんだ。天気予報つーのは当てにならない。女の心並に気まぐれだ。



