【完】スキャンダル・ヒロイン


想いを伝える機会は幾らでもあったように思える。
けれど、どうしても口に出来なかった。

俺は素直じゃないし天邪鬼で、何か言葉を言えば静綺を傷つけてばかりで、俺が男だったら自分のような男は絶対に嫌だ。

付き合うならば絶対に昴のような男が良い。それを考えて更に落ち込む。段々と深みにはまって行く。

振られても…煙たがられたって…想いを伝えるのは自由だったのに、どこまでも根性なしの俺はそれすらも出来なかった。

伝えたい言葉は胸の中に沢山あったのに。静綺は優しいからきっとこの不器用な想いを笑ったりしないだろう。けれど優しいからこそ俺の気持ちを素直にぶつけたら真剣に悩んで、困らせてしまう。


10月に公開される2時間ドラマの番宣の為にテレビ局内を慌ただしく飛び回る日々。
くわえて雑誌の撮影やインタビューも入っていて、目まぐるしい日々だった。

冬の連ドラの決まって、不本意ながら昴とダブルキャストだが。映画の話も何件も舞い込んできている。

仕事は好調だった。自分で思っているよりずっと。

ネットでは俺の復活劇を面白おかしく書き立てられて、事実じゃない内容にへこむ所もあるけれど…姫岡真央のドラマには期待しない。演技は下手糞なんて中傷コメントもいくつか見受けられるけれど

それ以上に俺を待っていてくれて、応援してくれる人間がいるって気が付かせてくれたのも静綺だった。

そしてどんな言葉を前にしても真っ直ぐに演技に取り組んでいこうと思えたのは、お前が俺の演技を好きだと言ってくれたからだ。

真っ直ぐで曇りなき瞳で――。

沢山の想いをくれたのに、言いたい事は沢山あったのに、半分も伝えられなかった。