「昴さんって何でも出来るんだね。かっこいいねぇ。
あ、また負けた。」
「りっちゃん…真央は努力家で頑張り屋なんだよ」
ぼんやりとふたりが泳ぐ姿を見ていた。昴さんに必死に食らいついていく真央の姿を――。
昴さんのように何でも器用にこなすタイプではない。人を気持ちよくさせる優しい言葉がぽんぽんと出てくるタイプでもない。
TPOとPTAを間違うような馬鹿だけど……いつも一生懸命に頑張って来た姿を見てきた。努力出来るのは最高の才能だ。諦めない強い気持ちも。
さっきの悪魔の言葉がまた聴こえる’こんな素敵な人に愛されてたらきっといつか真央の事なんて忘れちゃうって~’
忘れられる訳ないんだ。あんなに必死に頑張る姿を見て、応援したくなるのはいつだって真央の方だ。
好き以外の何があるのだ。
数10回繰り返して、やっと真央は昴さんに勝つ事が出来た。
水から顔を出すと、まるで子供のように無邪気に笑い、「勝ったー!!今のが本番だから、俺の勝ちな!?」と無理な理屈をつけて、子供のように喜ぶ彼を見て改めて好きなんだと再確認してしまうのだ。
やっぱり好きだ。
昴さんには改めてハッキリと断ろう。
きっと何度も後悔する日が来るかもしれない。
でも私は昴さんとだけは付き合う事が出来ない。昴さんと一緒に居てもきっと真央の事ばかり考えてしまって、困らせるだけだ。



