【完】スキャンダル・ヒロイン


珍しく子供みたいな我儘を言ったかと思えば、昴さんは私の体をぎゅっと強く抱きしめてくる。
ぶっ倒れそうだった。これは暑さだけのせいではない。

けれど私の爆発しそうな心臓の音と重なった昴さんの鼓動は、同じくらい速かった。同じ人間だ。

そして私が緊張しているのと同じくらい昴さんも緊張していると思ったら、何故か安心出来た。

’こんなチャンス二度とないんだよ~?’

’大滝昴だよ~?そんな人が自分を好きって言ってくれてるんだよ~?’

’ほんとーにほんとーにこの機会を逃しちゃっていいの?’

’こんな素敵な人に愛されてたらきっといつか真央の事なんて忘れちゃうって~’

私の中の悪魔が心を揺らす。
その時だった。

バシャッと水の跳ねる音がして、私達の周りにあった浮き輪が宙へと離される。
浮き輪を掲げて、怒っている顔をしているのは真央だった。

「PTAをわきまえろ!」

そして真剣な顔をして怒鳴った。
昴さんは平然とした顔で、「TPOな?」と言い返した。

思わず顔を逸らして笑ってしまう。その様子をみた真央の顔が段々と赤くなっていって「勝負だ!昴!」と言い出したもんだから、何故かクロールでふたりが勝負する事になってしまった。

しかしクロールでの勝負も昴さんの余裕の勝ちだった。昴さん程の完璧な人はいない。
けれど何度負けても真央は何度も「もう一度だ」と言った。

絶対に負けず嫌い。そして努力家。そんなのは知っていた。
何度も水を掻き分けて泳ぐ真剣な姿を見て、気づいてしまったのだ。