「あぁ…そういう事な…」

「う、うん…」

真央は体を横に向けて、冷房の風が当たるように宙を見上げて手で顔を仰ぐ。
…やっぱり綺麗すぎる、その横顔は。色々な表情を知っているんだ。

そうやって綺麗な横顔で宙を見上げる愁いの帯びた顔も。意地悪な顔も、笑ったら実は優しい顔も、嬉しい事を話す少年のような顔も。

ここ数か月で、彼の色々な表情を見て来た。

「あぁ。そうだ、台本があるんだ。ちょっと見て見るか?台本なんて見た事ないだろう?」

「うん。見るッ」

既に読み古した様子のある台本。今度台本を入れるケースを買って来てあげようかな…。この人読みすぎて台本をボロボロにしてしまうタイプらしいし。

それにしても可愛らしい表紙をしている。ラブコメっぽくピンクの台本でハートやキラキラといった絵文字が印字されている。

食堂のソファーに座ってふたりでひとつの台本を開く。余りに近すぎる距離に思わず肩が当たる。

「わ…!」

「きゃッ!ご、ごめんなさい…」

「いや…全然良いんだ。」

何か気まずい…。

「だ、台本可愛いね」

顔を上げると目の前に真央の綺麗な顔が飛び込んできた。息が吹きかかりそうなほど、近い。

思わず互いにそっぽを向く。私の心臓はもう爆発寸前だった。というか…心臓止まってしまうんではないかって位、何故にこんなに意識してしまっているの?!

「ま、ま、ま、まあラブコメだからな」

「ら、ら、ラブコメだもんね」

台本どころの騒ぎではない。心臓が忙しく動いて全然集中出来ない。
一枚ぱらりと捲ると、そこには出演者の名前と役名が載っている。勿論真央は主役だから名前は1番先だ。