【完】スキャンダル・ヒロイン


「まーまー失恋くらいでごちゃごちゃ言わないで。私だってそこまでたっくんに本気じゃなかったし。
それにこの夏はバイトでもしようかなーって思ってから丁度良いって感じで!」

茶化して言うと、周りにいた女の子たちも笑いだしてそれぞれ別の話に耳を向け始めた。

ホッと胸を撫でおろした。誰かが「お調子者」と言って笑った。「静綺は強いから心配ないよねー」とも。

唯一りっちゃんだけが無言のまま心配そうな視線をこちらへ向けた。さすがは親友。…言いたい事が沢山あるのは分かる。分かってるよ。

「てか、静綺バイトしたいの?」

「そうなのー春香ー何かいい所ない~?春香なら顔広いから良いバイト先知ってるかなーって思って」

「そっか。静綺両親の伝手でとっくに就職は決まってるもんね。
バイトかぁ~。ん~…
あ!そうだいい所あるよ!叔母さんが丁度バイト募集してて頼まれたんだけど、住み込みになるつーから…あたしは彼と夏は楽しみたいからって断ったの」

「住み込み?」

たっくんに失恋した日は人生史上最悪の日になると思っていた。これ以上の最悪な事は起こらないと…。

しかし春香から持ち込まれたバイトの話に乗ってしまった為、私の人生史上最悪の日は呆気なく更新される事になるのだ。

あの時バイトをしたいと言っていなければ…
あの時春香の話に乗っていなければ…
あの時軽はずみにOKをしなければ…
私は人生史上最悪の日を更新しなくて済んだのに……――。