透明な世界で、ただひとつ。



「ジャングルジムの一番上。」

「ジャングルジム?」

「そう。昔、登るのがへたっぴで、登れる人がうらやましくて。中学生になってから初めて登れるようになって、あの瞬間がすごく幸せだった。

でも、登れなかったあの頃に見たのとは違ってすんごく低かった。」



その時にはもう既に夜盲になっていて、真っ暗な中にぽつりと三日月だけが見えていた。

降りる時には見えなくて、足を伸ばし恐る恐る降りた。



「なんか、あそこにいると昔の自分の持ってなかったもの、全部が自分のものになった気がするから。

優越感、かな。」

「言いたいことはわかる。
俺はこんなに成長したんだぞ、って思える時っていいよね。」

「そう、そんな感じ。」



最近、ルーズリーフの罫線だってパッと見じゃわからなくなっている。

私は目に見えるものをどんどんなくしてくばかりだから、昔はなくて今はあるものがほしかった。