遠くから走る足音がして、今度はガラガラとドアが開け放たれる音がする。



「瑞希!」



私の服と同じ柔軟剤の匂いがふわっと香った。



「柚香。」

「瑞希。」



柚香は駆け寄ってきて、もう一度私の名前を呼ぶ。



「見えないの...?」

「うん、でも大丈夫だよ?

心配しないで、笑って?」



私はそっと探すように柚香の方に手を伸ばす。

柚香の柔らかい頬の肌に触れると私よりも一回り小さい手のひらがそっと私の手を包んだ。



大丈夫、柚香の笑顔は私のまぶたの裏に映ったまま残ってる。



「瑞希ちゃん、とりあえず今日は先生のご好意に甘えて泊まっていきましょう。」



母の声がすると、柚香がぴくりとして私の手から離れ、椅子ががらがらと音をさせる。