先生の必死の説得の末、なつが手に入れたのはカメのぬいぐるみと水色のソフトクリームだった。

水族館を出て、水族館傍の海の見えるベンチに座ったなつは、寂しげな表情のままソフトクリームを舐めていた。

さっき泣いたせいで、目の周りは赤く腫れてしまっているし、頬にも涙の跡が沢山残っている。

せっかく、今日は沢山のなつの笑顔を見れたのに、最後はこうなってしまうのか、と切なくなっていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

振り返ると、ソフトクリームを手に持った染谷先生。

「はい、これ。瀬川もどーぞ。」

急なことで驚いていると、「いいから、いいから。」とそのまま背中を押されなつの座るベンチまで連れて行かれた。

「風気持ちいいねー。海もキレイだし!」

先生はそう言うも、なつはしょんぼりとした表情のまま何も言わない。

「てか、このアイス美味しいね!塩が甘さを引き立ててて最高。」

その言葉もまた華麗にスルーされて、俺が何か言うべきか焦っていると、染谷先生は困ったように笑ってなつの頭をぽんぽんと撫でた。

「なつ、今日、楽しかった?」

流石に名指しで質問されては、なつも無視出来なかったようで小さくコクリと頷く。

それを見た染谷先生は嬉しそうに笑って、またなつの頭を撫でた。

「そっか。よかった。ならさ、せっかく楽しかったんだし、最後まで楽しまない?嫌なこと考えたら悲しくなるだけだし、今はまだ目の前に楽しいこと残ってるよ。」

決して、押しつけではない、けどそっとなつの目を嫌なことから逸らしてあげる優しい言葉。

その言葉に、なつの目から止まっていた涙がまたこぼれ出した。

「ヒック…グスッ……また…ヒック、また、くる……」

「うん。また来ような。約束。」

青空の下、先生となつの指切りは固く結ばれていた。