黒いスーツを着こなし、胸にバッチをつけた女性ーーー初音絵麻(はつねえま)は真面目な表情で会議室へと入る。これから捜査会議が始まるのだ。

絵麻は刑事をしている。所属は捜査ニ課だ。捜査ニ課では主に知能犯を捕まえる。詐欺や通貨偽装といった金銭・経済・企業犯罪のことだ。

「今回の事件は、二十人近くの女性が被害に遭っている国際ロマンス詐欺についてだ」

捜査会議が始まり、ホワイトボードに被害者の名前や犯行手口などが描かれていく。絵麻は真剣にそれらの情報をメモし始めた。

国際ロマンス詐欺とは、主にインターネット上の交流サイトなどで知り合った海外の相手を言葉巧みに騙し、恋人や婚約者のように振る舞い、金銭を送金させる振り込め詐欺の一種だ。東京や愛知など、多くの県の女性が今回の事件で騙されている。

「しっかし、被害者もおかしいとは思わないのか?内戦現場に行った男が簡単に連絡を送れること、怪我をした治療費を自ら負担しなければないないだの、おかしいことばかりじゃないか」