きみに想いを、右手に絵筆を

 噂じゃ白ゆりは内気で、男が苦手……。

 とにかく俺は美少女すぎる彼女を見ていられなくて、スッと目を逸らした。

 突然の事で恐らく顔は赤くなっているだろう。

 かっこ悪りぃ……。

「私、一年三組、白河 百合菜といいます。先輩の絵の大ファンです!」

「……はぁ」

 え。大ファン?

 その言葉が頭の中で何度もこだまする。

 このかわい子ちゃんが俺の……大ファンなの?

 内心で小躍りする俺をよそに、彼女は話を続けた。

「あの……。絵、辞めたりしないですよね?」

「……え」

「あの絵から和奏先輩描いてないって聞いて。辞めないですよね??」

「……あ。うん」

 調子良く、作り笑いで俺は嘘をついた。

 本当はもう八割以上、描かないつもりだった。描かないというより、描けないんだ。

 俺の嘘になど微塵も気付かず、白ゆりはふわっと純朴に笑い、「良かったぁ」と嬉しそうに言った。

 笑顔……。希少価値だ。

 きっと男で彼女の笑みを見たのは俺だけに違いない。

 美少女自らが話し掛けてくれた事で、俺は自惚れていた。

「次、何描くんですか?」

 彼女はそれまで手にしていたプリントを俺に手渡し、愛らしく小首を傾げた。