きみに想いを、右手に絵筆を

 ごく控えめに言って、めちゃくちゃ可愛かった。一瞬、地上に降り立った天使かと思った。

 プリントを掴んだままぶらりと右手を下ろし、左手の甲で顔を覆う。

 白ゆり、とまた脳内で繰り返す。

 その時ザッ、と上靴で地面を擦る音を耳で拾い、左手をずらした。

 タツか……、杏奈か?

 誰かが俺に近付いて来る気配がして、チラリと横目を向ける。

「高平 和奏先輩?」

 ……え。

 一瞬にして時が止まる。

 視界に天使が映っていた。

 ふわふわと風になびく髪を手で押さえて、白ゆりが俺を覗き込んでいた。

 はっ!??

 俺は即座に上体を起こし、僅かに後ずさった。

 なんだなんだ?? 何でここに白ゆりが!?

 まさか俺の妄想から抜け出してきたんじゃないだろうな!?

「あっ!」

 白ゆりはつぶらな瞳をぱたぱたと瞬き、俺のすぐ前にしゃがみ込んだ。

「また描くんですね!?」

「……ハ?」

 彼女が手にしたプリントを見て、ああ、さっきまで俺が見てたやつ、と冷静になる。

「あっ、ごめんなさい。いきなり」

「いえ……」

 初めて聞いたけれど、リンと鈴が鳴るような、可憐な声だ。

 ドキドキと心拍数が上がる。

 何なんだコレは。ドッキリか?