きみに想いを、右手に絵筆を

 完徹したせいか、少しだけ体がふらつくが、なんて事はない。

 母さんが熱いカフェオレを淹れてくれた。

 時計の針が八時を回り、俺は白河に電話を掛けた。

 今日は土曜日で学校は休みだし、母さんの話によるとまだ隣りに住んでいるらしい。

「あ。白河? 昨日、ごめんな?」

『う、ううんっ。私の方こそ、酷い事言ってごめんなさい』

 気のせいか白河は僅かに涙声だった。

「俺さ、今実家にいるんだ」

『……え?』

「親父のアトリエ。絵、完成したから見に来てよ?」

『……っ、うん!』

 もう逃げない。

 白河がまた俺をこの場所まで連れて来てくれたから、諦めずにチャレンジし続ける。

 この手でいつか。

 俺は親父という壁を越えてやる。

 白河を電話で呼び出し、一時間もしない内に実家のインターホンが鳴った。

 俺が出ると言って、玄関の引き戸を開ける。

 彼女は片手でキュッと髪を握りながら、こじんまりと立っていた。

 家の中へと促し、アトリエまでの廊下を歩く。

 イーゼルに立て掛けたキャンバスを見て、白河は目を見張り「わぁ」とだけ呟いた。

「なんか……私じゃないみたい」

 絵のタイトルは【きみの手】だ。

 中央に彼女を描き、その両手が癒しの象徴であるかのように描いた。

 ジッと絵の中の自分を見つめながらも、やはり恥ずかしそうに自分の髪に触り、縮こまっている。

 彼女の仕草は昔会った時から全然変わらない。

 恥ずかしいと髪に触る癖が有り、内気で引っ込み思案のゆりちゃんだ。