きみに想いを、右手に絵筆を

 俺は高名な画家である"高平画伯"の名を言い訳に、今までずっと逃げてきた。

 あの壁だけは越えられないと決めつけ、いつしか諦めるようになった。

 母さんが出してくれた白いキャンバスをイーゼルに立てて置き、俺は鉛筆を取った。

 別の紙に下絵を描く事もせず、一度目に描いた構図とは全く別の絵をキャンバスいっぱいに描いていく。

 俺が知っている白河 百合菜を紙面いっぱいに表現する。

 木製のパレットに油絵具を絞り出した。

 数ある親父の筆の一本を借り、淡い色から順に色をのせた。

 多分……。

 これが本能なんだ。

 才能が有るとか無いとか、そんなものは関係ない。

 ただ俺は……。この手でもっともっと描きたいんだ。

 俺だけが創る世界観で、沢山の色を使って、今は無性に絵が描きたい。

 絵筆を握り始めると、時が経つのも忘れ、一心不乱に描き続けた。

 頭の中の映像をそのまま色で表現したくて、時間を掛けて丁寧に描いた。

 アトリエの窓が白みだし、目を細めて外を見る。夜が明けたのだと気付いた。

 程なくして母さんが起きてくる。

 朝を迎えたと思った時。白河の絵は完成した。