きみに想いを、右手に絵筆を

 俺は顔を上げ、射抜くような親父の目を真っ直ぐに見つめた。コクン、と深く頷く。

 溜め息と同時に、親父が頭をかいた。

「母さん、和奏を風呂に入れなさい。風邪をひく」

 今までずっと目指してきた親父の広い背中がそこにあった。

「……親父」

 若干、目が霞んだ原因は雨粒なのか涙なのか。鼻の奥がツンと痛くなった。

「アトリエ、使っていいぞ」

 ぶっきらぼうに言い放ち、親父は奥へと引っ込んだ。

 そばに立っていた母さんは俺にタオルを被せて、既に泣き顔だった。

 *

 風呂から上がり、置いたままの部屋着に着替えた。

 親父のアトリエに入るのは、多分小学生以来だ。

 部屋の扉を開けると、溶剤の独特な匂いに包まれた。

 さすが画家をやっているだけあって、今までに手掛けたキャンバスの数が半端ない。

 そこからまっさらのそれを、母さんが出してくれる。

 イーゼルを立てて準備していると、いつの間にか母さんが俺の鞄を開けていて、剥がした画布を広げて言った。

「あら? これって……百合菜ちゃん?」

「あッ! 勝手に見ん、って。知ってんの??」

「お隣りの百合菜ちゃんでしょ?」