座ってデッサンして良いとお母さんに許可を貰い、そこでゆりちゃんと色々喋りながら俺はあの絵を描いた。

『今はまだ認められなくても、俺諦めないんだ。いつかこの手で親父を越えるって!』

 スケッチブックに下絵を描きながら、密かに野望も口にする。

『あ、そうだ。描かせて貰うお礼に下絵できたらゆりちゃんにあげるね?』

『……え』

『と言っても、親父と違って価値は無いんだけど』

 ゆりちゃんは首を傾げたあと、恥ずかしそうに短い髪を撫でてコクンと頷いた。

『この庭、光いっぱいにして描くからさ。諦めんなよっ』


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 キャンバスから画布を剥がし、鞄に突っ込んだ。

 白河が俺に返した下絵を握り締めながら、気付けば体は走り出していた。

 いつ降り出したのか、夕方の空は黒い雲に覆われて土砂降りになっていた。

 傘なんか持っていなくて、スニーカーで水を跳ねながらひたすらに走る。

 ザアァと音を立て、アスファルトへ打ち付ける雨は俺をいとも容易くずぶ濡れにした。

 前回はいつ行ったのか覚えていない。顔を見るのも久しぶりだ。

 それでも行かなければいけないと自らを鼓舞して、走り続けた。

「……和奏…っ!」