毎日好きなアニメを観ている、音楽を聴きながら日記を付けている、と時々どもりながら自分の事も話してくれた。

 学校へは行きたくないから行ってない、ママにもお休みをして良いと言われた、と言い、女の子の情報が増えていく。

 何か事情があって引きこもりになったらしいと理解した。

 庭で水をやる女の子に、塀の外から話し掛けていると不意に彼女のお母さんが家の中から出て来て、あら、と声を掛けられた日もあった。

『確かお隣りの、和奏くん……だったかしら?』

 おお、何気に知られているのか、と思いながら、『こんにちは』と挨拶をする。

『ごめんね、百合菜は引っ込み思案だから』

 お母さんにそう言われ、女の子の名前が百合菜ちゃんだと知る。俺はゆりちゃんと呼ぶ事にした。

『またちょくちょく話し掛けてあげてね?』

 穏やかに笑うお母さんに優しそうな印象を抱いた。

 三本の向日葵を描けるようになったのは、ゆりちゃんが『どんな絵を描くの?』と俺に興味を持ってくれたからだ。

 短い髪を撫でるように触りながら『入って良いよ』と言われ、門扉から庭へとお邪魔する。

 八月の縁側は暑かったけれど、麦茶とスイカを頂いて食べたのが美味しかった。

 ブタの置物みたいな陶器の中で、蚊取り線香の煙りがふわふわと舞っていた。