『なぁ。お前何で学校行かないの? 近所のおばちゃん噂してたよ?』
高一の七月。学校帰りの事だった。
隣りの家で咲く向日葵をどうやって描こうか考えていると、家主である女の子が縁側から庭に下りてきて、ホースで水遣りを始めた。
話し掛けるチャンスだと思った。
描かせて下さいとお願いして、次はこの庭を描こうと勝手に決めた。
俺より年下に見えた女の子は、小柄で髪は短めのボブにし、顔に眼鏡を掛けていた。
いかにも地味で陰キャラな雰囲気をぷんぷんさせている。
俺が話し掛けると、その子はビクッと肩を震わせ、怪訝な瞳で俺を見た。
『あ。俺、隣りに住んでる画家の息子。別に怪しいもんじゃないよ?』
女の子は無言だった。表情は暗く、眉を寄せている。
鬱陶しがる彼女にお構いなく、俺は笑顔で続けた。
『絵を描くのが好きで、今どこ描こうか考えてたんだけど。お前んちの庭描いていい?』
『……なんで』
ホースから流れる水を不服そうに見つめながら、女の子はボソッと呟いた。
ようやく喋ったかと思い、率直に思った事を述べた。
『向日葵きれいだもん』
それから学校帰りの、いつもと同じ時間にその子を見掛けるようになった。
『元気?』と声を掛けると、ううんと首を振る。
日を重ねるうちに、女の子はポツポツと言葉を発するようになった。